2015年2月3日火曜日

"Kyoko's House(鏡子の家)" ———三島由紀夫、幻の伝記映画 "Mishima: A Life In Four Chapters"(1985)

「哀れな奴らだよ。自分たちが生きてないってことにも気づいていないんだから……」

“Kyoko's House(鏡子の家)”で、売れない俳優を演じた沢田研二のセリフ。
肉体的コンプレックスと、老いへの恐怖、美への執心……。三島が繰り返し呈示するこれらの題材は非常に形而上的で、私たちの想像する「美」とは遠い場所にある。三島の美とは強いられたものだった。その不気味なまでに均衡性の保たれた美は、見る者を蠱惑し、同時に絶望へと突き落とす。彼の考える男性の美とは終末論的時間……つまり死をもって完了するためだ。


映画全体を覆う異様な配色の美術セットが、一層、美しい青年の虚無をえぐり出しているようだった。

……さて。やっと観ましたよ、"Mishima: A Life In Four Chapters"。
前々から存在こそ知っていましたが、評判があまり聞こえず(日本未公開だから当たり前と言ったら当たり前なのですが)今回動画サイトではじめて観ました。
私ははじめ伝記 映画と聞いて、真っ先にかのヴィスコンティの『ルートヴィヒ』のような、三島由紀夫そのものをありのまま豪華絢爛に描き切った映画を想像したのですが……いやはや、さすがアメリカの監督って感じですね。良い意味で裏切られた気がします。逆に振り切っていて、かなり好きな雰囲気でした。このチープ感漂うセットとか、胡散臭い色遣いとか、ほんといいですね。ある意味、三島の文学を一番理解しているのは海外の読者なのでは?と思ったり。
特に、劇中劇がいい。劇中劇で描かれているのは『金閣寺』『鏡子の家』『奔馬』———本当はここに『天人五衰』も入るはずだったそうな。ちょっと観たかったなあ。作品と三島自身が交互に出ることによって、現実と虚構が交錯していく感じがなんとも面白い。

劇中劇で一番素晴らしいのは、やっぱり『鏡子の家』だろう。

沢田研二の演技はすごい。
すごすぎて、この名演が実質日本ではDVD 化すらされていないという現実に軽い憤りすら覚える…(なんでだ!)
特に、彼が扉から漏れる光を受け、恍惚とした表情で煙草に火をつけるショットが最高に素晴らしい。ここに画像を載せてもよかったんだけど、ぜひ本編で確認してほしいため、あえて控えさせていただいた。
彼は肉体に痛みを感じることではじめて自身の生を感受した。痛みの極限、すなわち死へと突き進む。芝居の血なんかじゃだめだと言い、女を「真の」刃物へと向かわせる……「本当の血じゃなきゃだめなんだ」沢田研二の 個性的で清澄に通る声が、ここではゾッとするような音色に聞こえる。言ってしまえば陳腐なSMで、痛ましく、セクシャリティな場面なのに、妙な気品さえ漂う場面だ。こんなラブホテルみたいな配色の画面にくっきりとした輪郭をもって凛然と横たわれるのは、さすが昭和スターの貫禄といえようか。あっぱれと言いたい。俳優・沢田研二の圧倒的な存在感に魅せられた一幕だった。私的には、このワンシークエンスのためにこの映画を作ったと言われても納得してしまう。買いかぶり過ぎかな?

YouTubeにもニコニコ動画にも、今のところ全編上がっているので是非ご鑑賞いただきたい(分割されていないぶんYouTubeのほうが見やすいかも)。ちなみにテレビ画面で見たいよ〜と言う方は、『三島由紀夫の一九七〇年』という単行本の付録DVDとしてこの映画が付いているらしい。版権元無認可のいわゆる海賊版ですが、気にならない方なら良いのではないでしょうか。海外版DVDもAmazonにありますが、 すべて中古のためちょっぴりお高いです。

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